三沢といわれる大沢・広沢・猿沢は日本の三大名月鑑賞池である。ここ嵯峨野にはこの三つの池のうち奈良の猿沢を除く二つの池がある。
地質学的には嵯峨野は大堰川の氾濫源で各所に沼沢池があったといわれる。都の先住者秦氏がこの地に大堰をつくり溢水を食い止め、肥沃な田地をつくったのが嵯峨野であるがいくつかの沢池を灌漑用として残したのも当然である。
広沢の池も灌漑用としてつくられたうちの一つであるが、この大沢の池は嵯峨天皇が離宮(いまの大覚寺)を設けた時に中国の洞庭湖を模して作ったものである。池の中に「天神島」「菊ヶ島」の二つの島がつくられている。
「菊ヶ島」で天皇は野菊を採り水がめにこれを差し入れたときの形が「天・地・人」にかたどられたことから嵯峨華道がはじまったといわれている。
また、名月鑑賞の池として古来より仲秋の名月には観賞会が行われてきた。現在も竜頭船や観賞船を浮かべ観月の夕べが行われている。
なおこの池の北方に「名古曽の滝」の跡がある。藤原公任の「滝の音の絶えて久しくなりぬれど名こそ流れて」の歌はこの滝を詠んだものである。 |